ストレッチは筋肉を伸ばすもの、神経モビライゼーションは神経を滑らせるものです。対象がまったく違うため、「ストレッチをしても戻ってしまう」痛みに対して、神経モビライゼーションが選択肢になることがあります。この記事では両者の違いと、どんなときにどちらが向くのかを整理します。

結論|対象と目的が根本的に違う

一般的なストレッチ神経モビライゼーション
対象筋肉・腱・関節神経と、その周囲の組織
目的筋肉の長さを伸ばす/柔軟性の向上神経の滑走性(すべり)を回復させる
動かし方一定方向へ伸ばして保持する一端をゆるめ、一端を伸ばす動きを繰り返す
期待できる変化筋疲労の回復、可動域の改善痛み・しびれの軽減
向くケース運動前後、筋肉の張り慢性痛、しびれ、ストレッチで戻る痛み

なぜ「神経を滑らせる」必要があるのか

神経は、骨や筋肉の間を通り抜けながら全身に張り巡らされています。そして身体を動かすたびに、周囲の組織の間を微細に滑っています。腕を上げれば腕の神経が引き伸ばされ、前かがみになれば背中の神経が引き伸ばされる、という具合です。

ところが、長時間の同じ姿勢、過去のけがや炎症、加齢による組織の変化などによって、神経が周囲の組織に貼り付いたような状態になることがあります。こうなると、動くたびに神経が引っ張られ、痛みやしびれとして感じられます。

この状態に対して筋肉を伸ばすストレッチを行っても、神経が滑らないという問題そのものは変わりません。一時的に楽になってもすぐ戻るのは、このためであることがあります。

動かし方の違い|「伸ばす」ではなく「滑らせる」

もっとも分かりやすい違いは、動かし方です。

一般的なストレッチ

筋肉を一定方向に伸ばし、その位置で20〜30秒保持します。目的は筋肉の長さを変えることなので、伸ばした状態を保つのが基本です。

神経モビライゼーション(神経フロッシング)

神経の一端をゆるめながら、もう一端を伸ばす動きを繰り返します。糸を通すように神経を前後に滑らせるイメージで、この動かし方が「フロッシング(糸を通す)」と呼ばれる由来です。

保持せずに動かし続けるのは、神経は強く引き伸ばすと過敏になる性質があるためです。強く伸ばすほど効果が上がるものではなく、むしろ症状を悪化させることがあります。

用語の整理|似た言葉が多いのはなぜか

検索していると「神経系ストレッチ」「神経モビライゼーション」「神経フロッシング」「ニューロダイナミクス」など複数の言葉が出てきますが、これらは対立する別々の施術ではありません

用語位置づけ
ニューロダイナミクス神経と周囲組織の力学的な関係を扱う理論・学問領域
神経モビライゼーションその理論に基づく手技の総称(正式名称にあたる医学用語)
神経フロッシング神経モビライゼーションの代表的な手法のひとつ
神経系ストレッチ同じアプローチを指す呼び名。当院で行っている手技の名称

つまり理論がニューロダイナミクス、手技の総称が神経モビライゼーション、その代表的なやり方が神経フロッシングという関係です。名称は違っても、目指しているのは「神経が本来の動きを取り戻すこと」で共通しています。

どちらが向くかの判断

一般的なストレッチが向くケース

  • 運動の前後、身体を動かす準備として
  • 筋肉の張りやこわばりが主な悩み
  • 特定の場所に「面」で重だるさを感じる

神経へのアプローチが向く可能性があるケース

  • ストレッチやマッサージで楽になってもすぐ戻る
  • しびれや、ピリッと走るような痛みがある
  • 痛みが「線状」に走る(お尻から足、首から腕など)
  • 画像検査で明らかな異常が見つからない
  • 特定の姿勢や動作で症状が強くなる

注意点|自己流で行わないほうがよい理由

神経モビライゼーションは、やり方を誤ると症状が強くなることがあります
・強く伸ばしすぎると神経が過敏になる
・回数を増やしすぎるとかえって刺激過多になる
・そもそも対象ではない状態(骨折、急性の炎症、感染、腫瘍など)に行うと危険

排尿・排便の障害を伴うしびれ、急速に進行する筋力低下、安静時にも強く痛む場合は、施術ではなく医療機関の受診が優先されます。

当院では初回にカウンセリングと検査を行い、施術の対象になるかを確認したうえで進めています。医療機関での治療が優先されると判断した場合は、その旨をお伝えしています。

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